ひとはだの効能
「最近お店どう? お客さん入ってる?」
「まあぼちぼち」

 二人肩を並べ、店までの道を歩く。

 歩き出すとすぐ、香澄さんは手を離してしまった。手持ち無沙汰になった右手を、渋々ジャケットのポケットに突っ込む。

「なに、遊馬くんなんか機嫌悪い?」
「べっつにー」

 あんたがすぐに手離しちゃうからだろ。俺のドキドキを返してくれよ。と心の中で舌を出す。

「何よ、かわいくないなあ」
「……アラサーがそういう顔しても可愛くないよ」
「痛った!」 

 隣でむくれる香澄さんの頬っぺたを、容赦なく片手で掴む。口を尖らせたままで俺を睨むと、香澄さんはぐっと眉間のしわを深くした。

「悪かったわね、どうせもうすぐ大台よ」
「もうすぐ?」

 思わず手を離すと、香澄さんは両頬を軽くさすった。

「遊馬くん容赦ない! もう、しわになったらどうしてくれるの?」
「ごめん、それより香澄さんもうすぐ誕生日なの?」

 俺が訊くと、香澄さんはきょとんとした顔で足を止めた。

「ああ、明日誕生日なの。とうとう私も三十代の仲間入り」

 ……なんだよ、それ。そういうことは早く言ってくれよ!
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