ひとはだの効能
 香澄さんの好みに合わせて、ワインの種類が豊富なビストロを予約していた。

 二人して大いに食べて大いに飲んで、店を出たのは二十二時過ぎ。香澄さんの二十代最後の夜が終わるまで、もう少し時間がある。

「このあとどうする?」

 訊きながら、鎌倉駅周辺にある雰囲気の良さそうな店を数件ピックアップしていたときだ。

「あ!」

 頭の中になんとなく駅舎を思い浮かべて、大事なことを思い出した。
 
「なに、どうかした?」
「いや、お祝いしてあげたいのはやまやまなんだけど、香澄さん電車なくなっちゃうよね?」

 スマホを取り出して時刻表を確認する。藤沢行きの最終は二十三時台だ。

 せっかく他の誰よりも早く香澄さんにハッピーバースデーを言えると思ったのに………
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