ひとはだの効能
「あー、そうだった。遊馬くんといるのがあんまり楽しくて忘れてた」

 がっくりと肩を落とす俺に、香澄さんはさらりと嬉しくなるようなことを言う。その一言が、俺の背中を押した。

「……あのさ、香澄さん」
「なに?」

 こんなことを言って、引かれたりしないだろうか。香澄さんの反応を見るのが怖くて、柄にもなく言い淀んでしまう。

「もし良かったら、このあと俺の家で飲まない?」
「……遊馬くんち?」
「そう。どうせ終電間に合わないならさ、うちで飲んでそのまま泊まっちゃえばいいんじゃない? 部屋なら余ってるし、駅から近いし、帰りも心配ないよ」

 精一杯なんでもない風を装った。

 下心なんて、もちろんこれっぽっちもない。これがベストな選択なんだ。そう自分に言い聞かせて。

「……そっかあ、それもありだね。でも、遊馬くんいいの? 本当に迷惑じゃない?」
「も、もちろん!」

 おそるおそる反応を窺っていると、こちらが拍子抜けするほどあっさりと香澄さんは承諾した。
< 36 / 147 >

この作品をシェア

pagetop