ひとはだの効能
「映画、面白い?」

 香澄さんはしばらく考えたあと、「いや、じつはよくわかんない」と気の抜けた返事をした。

 この映画は、田舎から都会の家庭へ奉公に出たベトナム人少女の成長と、長年に渡る初恋の模様を描いたものだ。セリフは少ないが、美しくかつ官能的な映像で見る者を惹きつける。

 川のせせらぎのように静かな物語だが、そこを俺は気に入っていた。

「でも、さっきからずっと見てる」

 画面の中の少女は、奉公先を訪れた初恋の男のために、手持ちの服の中から選んだ赤いアオザイで精一杯着飾って、彼に食事をサーブしている。

 少女と男が、言葉を交わすことはない。いつもより少しだけ着飾った自分で、男の視界に映る。それだけで、少女は十分満足なのだ。

「……健気だなあ」

 視線を画面に向けたままで香澄さんがポツリと呟いた。
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