ひとはだの効能
「仕事が一番なのわかってたから、寂しいも会いたいも全部飲み込んだ。彼の邪魔したくなかったから」

 絞り出すように言うと、また唇を噛む。

「やめて」

 見ていられなくて、唇に触れた。うっすらと滲んだ血を、指の先で拭い取る。香澄さんは悲し気に目を見開いていて、俺にされるがままだった。

「香澄さんは優しいんだよ。そんなこともわからないなんて、そいつがバカなんだ」

 俺を見上げる瞳が、ゆらりと揺れた。

「そんなヤツ、別れて正解だよ」

 なにかを堪えるように微かに震えていた口元が、ふっと緩む。

 そっと肩を抱き寄せて、その唇に口づけた。
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