ひとはだの効能
 出来立ての朝食をトレイに載せ、縁側まで運んだ。カフェオレから真っ白な湯気が上がる。昨日より、少し肌寒いのかもしれない。

「香澄さん寒くない?」
「うん、平気。空気がおいしいね」

 そう言いつつも、香澄さんはブランケットを手放さない。縁側に腰を下ろすと、雨に濡れた植物の匂いが身体を包みこんだ。

 香澄さんも俺に倣い、縁側に置いたクッションに腰を下ろす。肩に掛けていたブランケットを膝に載せると、まるで空気を味わうみたいに、目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。

 俺の家で、祖母の庭のおかげで、心からリラックスしてくれているようで、俺も嬉しくなる。

 かと思うと、いきなりバチッと目を開ける。トレイの上のクロックムッシュに気が付くと目を光らせた。

「ねえねえ、これってなんて言うんだっけ? すっごく美味しそう」
「クロックムッシュだよ」
「ああ、そうだった!」
「上に目玉焼きを載せたらクロックマダム」
「へえ~、そっちも食べてみたいなぁ」
「いいよ。また今度作ってやるよ」

 クロックムッシュの載った皿を手渡しながら言うと、香澄さんは「やった!」と嬉しそうな声を上げる。まだ温かいクロックムッシュにかぶりつくと、「うま!」と目を丸くした。

 すっぴんでパンを口いっぱい頬張る香澄さんは、いつもより少し幼く見える。

 誕生日の朝、滅多に見ることができない香澄さんを独り占めできたことに満足して、俺も朝食に手を付けた。
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