ひとはだの効能
 朝は霧雨だったのが、いつの間にか本降りに変わっていた。

 そのせいか、せっかくの日曜だというのにあまり客足が伸びない。暇を持て余した俺は、誰もいないのをいいことに、欠伸を噛み殺して堂々とカウンターの中で背伸びをした。

 手も空いていることだし、窓ガラスでも磨こうとカウンター下に収納してあるスクイージーに手を伸ばしたときだった。

 人の気配を感じて、顔を上げる。見覚えのある若い男性が、ちょうど入って来たところだった。

「葉月くん……だったよね? いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ」

 俺にこくりとうなずいて、葉月くんは窓際のテーブル席に腰掛ける。それを見届けてから、お冷とメニューを彼の元に届けた。

 彼、四宮葉月しのみやはづきくんは、莉乃ちゃんが大学で所属しているサークルのメンバーの一人だ。先日、飲み会明けの朝、莉乃ちゃんがこの店に連れて来てくれた。

 180に届きそうな長身に、細身の均整のとれたスタイル。今風のイケメンで、前回来てくれたときも、彼のことを狙っていそうな女の子たちが纏わりついていた。

「今日は一人? 莉乃ちゃんと約束でもしてるの?」
「莉乃は、来ません」

 何の気なしに莉乃ちゃんの名前を出した俺に、葉月くんは少し眉間にしわを寄せて答えた。 
< 53 / 147 >

この作品をシェア

pagetop