ひとはだの効能
 閉店時間の十九時より少し前に、香澄さんはやってきた。

「ごめん。もうちょっと早く来るつもりだったんだけど、契約先から急に呼び出しが掛かって」
「ううん、忙しいのに来てくれてありがとう。会えて嬉しい」

 二週間ぶりに香澄さんに会えて感じたままを言葉にすると、照れたのか彼女は薄っすらと頬を染めた。

「……私も、会えて嬉しいよ」

 ふふ、と微笑みながらそう口にする。カウンター席のスツールを後ろにずらすと、「ありがと」と言って腰掛けた。

 酸味が強めのコーヒーを好む香澄さんに、仕入れたばかりのコロンビア・アンジェリカを淹れる。二人分用意すると、俺は香澄さんの隣に腰掛けた。

「どう、調子は?」
「うーん、いい時もあれば悪い時もあるって感じ」

 突然訪れた午後の来店ラッシュのことを香澄さんに話す。結局客の波は夕方まで途切れることなく続き、最近落ちる一方だった売り上げも、どうにか今日は目標を越えることができた。
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