ひとはだの効能
 俺が香澄さんに甘いのは、……あなたのことが好きだからだよ。

 そう言いたいのをグッと堪え、「……わかったよ」と一旦引くことにする。

 こういう時、香澄さんは絶対に譲らない。俺が意地になれば、彼女はさらに頑なになる。

「でも無理に買わなくていいからね。気に入ったんなら、って思って言ってみただけだから」

 香澄さんの表情を窺いながらそう言うと、

「ううん、買って帰る。すっごく気に入った。それにね、支店にコーヒー好きな人がいるの。その人にもちょっと飲ませてみたい」

 上司にでも飲ませるつもりだろうか。いずれにしろ、香澄さんが気に入ってくれたなら俺も嬉しい。

 香澄さんは飲みかけのカップを両手で包むと、「ホントに美味しい」とまた口元に笑みを浮かべた。
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