ひとはだの効能
「香澄さんの方こそ、何かあったんじゃないの?」

 俺の質問に香澄さんは一瞬動きを止めた。

「……何言ってんの遊馬くん? ないわよ、何も」

 一呼吸置いてそう言うと、香澄さんは目の前のカップに手を伸ばした。

「嬉しい、遊馬くんの珈琲久しぶり。いただきます」
「話逸らさないでよ」

 口につける寸前で、香澄さんはカップを運ぶ手を止めた。

「だって香澄さん、本当はああいうことするタイプじゃないじゃん」

 結構長いこと、毎日のように顔を合わせていたのだ。さすがに香澄さんの人となりぐらいわかる。

「ああいうことって……」
「とぼけないでよ。ちゃんと覚えてるでしょ」
「……う」

 結婚式の夜、二人して挑んだ数々の行為が頭に過ったのか、香澄さんは顔を赤らめた。

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