ひとはだの効能
「なんで香澄さんがあんなことしたのか、ずっと気になってたんだよね。訊こうにも、朝起きたらいなくなってたし」

 翌朝俺が目を覚ますと、ベッドサイドにお金だけ置いて、香澄さんはいなくなっていた。

「寂しかったな。目覚めたら俺一人置き去りにされてて」
「だって、あの日は仕事だったんだもん……」
「だからって起こさずに行く? ひどいよね。やることやったら後はぽい、みたいな」
「そんなつもりだったんじゃないよ!」
「しかもお金まで出してもらっちゃって、さすがに俺、男として自信喪失……」
「だから!」
「ぶちまけちゃえば? 楽になるよ、きっと」

 あなたには、いつまでもつらい思いをしていて欲しくないんだ。

 ……そんな思いをするのは、俺一人で十分だ。

「……もうっ。敵わないわよ、遊馬くんには」

 そんな心の声が聞こえたわけじゃないだろうけど、俺の顔を見てぷっと吹き出すと、香澄さんはようやく観念したのか、静かに話し始めた。

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