ひとはだの効能
 俯いた顔を無理にでも上向けて、あの夜のように、衝動に任せてキスしてやればよかったのかもしれない。

 そうすれば鈍感な香澄さんも、さすがに俺の気持ちに気がついただろう。

 でも、俺はそうしなかった。

 想いをいつまでも捨てきれないつらさは、俺には、わかるから。

 だから俺は、香澄さんが泣き止むまで、腕の中に閉じ込めて濡れた頬を拭い続けた。

「……泣かないで、香澄さん」

 そう呟くと、香澄さんはおずおずと俺の背に両手を回す。抱きしめる腕の力を強めると、同じようにして彼女も応えた。
 
 あの夜の俺がそうだったように、あなたがこのぬくもりに癒されて、少しずつ前を向けるように。

 あなたの泣き顔はもう見たくないから、ずっと笑っていて欲しいから。

 「もう十分」と言われるまで、俺はこれからも、あなたに触れ続ける。 

 ゆっくりと点滅するクリスマスツリーのライトを見ながら、俺はそう心に決めた。
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