ひとはだの効能
 店の外には、延々と続く鉛色の雲。時折強い海風が、テラス席と店内を仕切るガラス窓を叩く。

 暖房の効いた店内には、抑えたボリュームで音楽が流れている。

 最後のランチ客を見送ってから、俺はクリスマスに向けた新メニュー作りに没頭していた。

 キッチンであまり扱い慣れていない素材と格闘していると、誰かがドアベルを鳴らして店に入って来た。

「こんにちはー」
「あ、莉乃ちゃんいらっしゃい。こっちどうぞ」

 いつものカウンター席に案内しようとすると、莉乃ちゃんは首を振った。

「今日はアルも一緒なんです」

 透明のドアの向こうに、こちらを見て機嫌よく尻尾を振るアルの姿が見えた。
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