ひとはだの効能
「散歩の帰り?」

 海を見ると途端に元気になるアルに付き合って、砂浜をむちゃくちゃに走らされたんだろう。ぐるぐるに巻いた黄色のマフラーから覗く鼻先は真っ赤だ。

「そうです。最近さぼり気味だったけど、今日ようやく時間が取れたんです」
「アルに寂しい思いさせちゃった」と言って、莉乃ちゃんはこめかみの辺りを指先で掻く。

 きっと大学やアルバイトが忙しいんだろう。そういえば最近は、店にもあまり顔を出していなかった。

「冷えたでしょ。アルには店先で待ってもらって、中で休んだら?」

 窓の外は、雪でもちらつきそうな天気だ。ヒーターやブランケットを使っても、テラス席では暖まらないだろう。

「でも……」
「他にお客さんも来そうにないし、もし来てもアルは滅多に吠えないから大丈夫だよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」

 そう言うと、莉乃ちゃんはようやくマフラーとコートを脱いだ。
< 77 / 147 >

この作品をシェア

pagetop