ひとはだの効能
「つらくないって言ったら嘘になるけど……。
彼から別れようって言われた時、私は訳がわからなくて、ただ呆然としてただけだったから」


 その言葉に彼女が受けたショックの大きさを改めて思い知る。

 だからこそ、香澄さんはあの夜俺に抱かれたんだ。

 香澄さんにとって、俺とのことはたぶん、事故みたいなもので。

 恋人との別離がなければ、おそらく俺達はこうして再び距離を近づけることもなかった。


「ちゃんと笑顔でおめでとうって言いたいんだ、私」

 俺の心中は知らず、やけにさっぱりした笑顔で、香澄さんが言う。


「そうして、もう全部終わりにしたい。
……前を向きたいの」

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