ひとはだの効能
「ありがとうございました」

 今日最後のランチ客である高校生カップルを店の外まで見送る。

 手を繋いで幸せそうに見つめ合う二人を微笑ましく眺め、そっとドアを閉じた。

 香澄さんは、今どうしてるだろう。

 無理に笑っていないだろうか。

 ふとした時に頭に過《よぎ》るのは、胸の痛みを堪え、つらそうな笑顔を浮かべる香澄さんの姿。

 店内の時計を見上げると、時刻はもうすぐ、午後三時。

 香澄さんは挙式から出席する予定だと聞いている。

 会場は横浜。幸いと言っていいのか……店内に客はいない。

「……くそっ」

 エプロンの紐を解き、店の奥に置いていた財布とダウンコートを掴む。

 一時間ほど不在にする旨を書いたメモをドアに貼り付け、俺は店を飛び出した。
< 99 / 147 >

この作品をシェア

pagetop