亡国の王女と覇王の寵愛
ディアロスはただ、自分の野望のために兵を挙げたのではなかった。
この国に暮らす人々のために、少しでも改善することができればと、たったひとりで戦っていたのだ。
「では……。ディア兄様は……」
「それだけならば、ディアロスは憂国の志士だと言えるだろう。だが彼は国王夫妻だけではなく、式典に集まっていた貴族も何人か殺した。お前のことをどうするつもりだったのかはわからないが、もしかしたら処刑するつもりだったのかもしれない。ディアロスはともかく、革命軍はそう望んでいたようだ」
「そんな」
自分が処刑されたかもしれないということよりも、ディアロスが貴族達も殺したというあまりにも衝撃的な事実に、レスティアは震える両手を強く握り締めた。
それでは、立場が入れ替わっただけで百五十年前の虐殺と何も変わらない。震える声でそう言うレスティアに、ジグリットも頷いた。
「俺は彼に、レスティアは真実を突き止め、過去を悔いて未来を変えようとしているのだと告げた。……ディアロスは相当、驚いていたようだったが」
ディアロスにとってレスティアは、ただ美しいだけの人形のような王女のままだったのだろう。だからこの王城で接触したとき、そんなレスティアを言い含めてあの城を抜け出すための人質にするつもりだったのだ。
「それで、ふたりは今は……」
「イラティは王城にいる。彼女には少し休息が必要だ。落ち着くまでゆっくりと休ませようと思う。……ディアロスは」
ジグリットは一端言葉を切った。
沈黙が続く。
迷うようなその横顔を見つめながら、レスティアはただ静かに彼が口を開くまで待っていた。
「ディアロスは、奇襲に失敗してそのまま逃亡した」
「え?」
その言葉の意味を尋ねるように聞き返すと、ジグリットは手を伸ばしてレスティアの髪を撫でた。
「ディアロスのしたことは、一方的な虐殺だ。許されることではないだろう。それでも孤軍奮戦してきた彼の苦悩を思うと、同情の余地はある」
「……ジグリット」
彼はディアロスを見逃したのだろうか。
国を守るために父を殺さなければならなかった自分の境遇と、少し重ねているのかもしれない。そう思うと、胸が痛んだ。
この国に暮らす人々のために、少しでも改善することができればと、たったひとりで戦っていたのだ。
「では……。ディア兄様は……」
「それだけならば、ディアロスは憂国の志士だと言えるだろう。だが彼は国王夫妻だけではなく、式典に集まっていた貴族も何人か殺した。お前のことをどうするつもりだったのかはわからないが、もしかしたら処刑するつもりだったのかもしれない。ディアロスはともかく、革命軍はそう望んでいたようだ」
「そんな」
自分が処刑されたかもしれないということよりも、ディアロスが貴族達も殺したというあまりにも衝撃的な事実に、レスティアは震える両手を強く握り締めた。
それでは、立場が入れ替わっただけで百五十年前の虐殺と何も変わらない。震える声でそう言うレスティアに、ジグリットも頷いた。
「俺は彼に、レスティアは真実を突き止め、過去を悔いて未来を変えようとしているのだと告げた。……ディアロスは相当、驚いていたようだったが」
ディアロスにとってレスティアは、ただ美しいだけの人形のような王女のままだったのだろう。だからこの王城で接触したとき、そんなレスティアを言い含めてあの城を抜け出すための人質にするつもりだったのだ。
「それで、ふたりは今は……」
「イラティは王城にいる。彼女には少し休息が必要だ。落ち着くまでゆっくりと休ませようと思う。……ディアロスは」
ジグリットは一端言葉を切った。
沈黙が続く。
迷うようなその横顔を見つめながら、レスティアはただ静かに彼が口を開くまで待っていた。
「ディアロスは、奇襲に失敗してそのまま逃亡した」
「え?」
その言葉の意味を尋ねるように聞き返すと、ジグリットは手を伸ばしてレスティアの髪を撫でた。
「ディアロスのしたことは、一方的な虐殺だ。許されることではないだろう。それでも孤軍奮戦してきた彼の苦悩を思うと、同情の余地はある」
「……ジグリット」
彼はディアロスを見逃したのだろうか。
国を守るために父を殺さなければならなかった自分の境遇と、少し重ねているのかもしれない。そう思うと、胸が痛んだ。