亡国の王女と覇王の寵愛
「もしお前を傷つけたら、俺は絶対に許すつもりはなかった。だが、結果的に彼はそうしなかった。ふたりきりで会ったのだから、どうにでもできたはずだ。……最初から、お前だけは傷つけるつもりはなかったのかもしれない」
「……」
 レスティアは両手を固く握りしめた。
 ジグリットはそんなレスティアの肩を抱く。
「ディアロスは今、グスリール王国の王都にいるはずだ。まだ生活に困窮している者が大勢いるのだと言っていた。罪は消えない。だが、彼にも償う機会を与えたいと思う」
 罪は罰せられなければならない。
 ディアロスのしたことは許されることではない。
 だが自分のことしか考えない者ばかりのあの国で、彼の行動で命を助けられた者も数多くいただろう。
(それに比べて私は……)
 国の実情を何も知らなかったように、ディアロスが何を考え、どんな気持ちで国王になろうとしていたのかまったく知らなかった。
 彼はまず国王に進言し、受け入れられずに自ら改革を行おうとした。それも諦めなければならないと悟ったとき、実力行使に出てしまったのだ。
 理想を掲げながら、それを叶えられない苦しみはどれだけ彼を蝕んだのだろう。
 その絶望は、より良い世の中を作ろうとしていたディアロスに一方的な虐殺をさせてしまうくらいだったのだろうか。
「私も連れて行ってください」
 思わずレスティアはジグリットの腕に縋り、そう懇願していた。 
「あの国がどうなっているのか、この目で見たいのです」
「レスティア……」
 革命軍は、まだ身を潜めているかもしれない。
 滅びた国の象徴として、レスティアを狙っているのかもしれない。
 捕らえられたときのことを思い出すと、今でも身が震える。
「危険があるのは承知しています。迷惑をかけてしまうことも。でも私はもう、知らない間にすべてが終わっているのは嫌なのです……」
 感情が昂ぶり、涙声になってしまっている。泣き落としなんて卑怯だ、と思うのに、溢れてくる涙を堪えきれずにレスティアは両手で顔を覆う。
「私は……」
 涙は収まるどころかますます流れ出てくる。
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