亡国の王女と覇王の寵愛
「生きている人間が、しあわせを求めて何が悪いの? 私はあなたとしあわせになりたい。一緒に生きたい。たとえ死んだ後に地獄に堕ちたとしても、後悔なんてしないわ。あなたと一緒ならば、地獄だってかまわない」
 そう言いながらも、不思議に思う。
 罪深いほどに世間知らずで、ただ守られていただけの自分が、こんなにも強く誰かを守りたいと、愛しいと思う日が来るなんて思わなかった。
「私はもう、あなたから離れないわ。たとえ戦場だろうと、ずっと一緒にいる」
 これからも困難は続くだろう。
 ディクロスがどう応じるのか、まだわからない。イラティをこれからどうするのか、それもまた悩むところだ。
 だがふたり一緒にいる限り、どんな試練でも乗り越えることができる。
 レスティアはそう信じていた。
「愛しているわ。あなたに会えてよかった……」
 ジグリットの腕に身体を預ける。
 彼はレスティアを抱き締め、そうして唇を重ねる。
 愛しさが胸に沸き起こる。

 それから、数か月後。
 レスティアはジグリットとともに、祖国を訪れていた。
 破壊された王城はそのままだが、町は以前のままだ。ジグリットが率いたヴィーロニア軍も革命軍も、戦闘したのは王城の周辺だけだったようだ。
 国がなくなっても、人々の生活は続いていく。
 むしろヴィーロニア王国に侵攻されてから暮らしやすくなったと喜んでいる者もいる。グスリール王国の王女としては、本当にどう謝ればよいのかわからないくらいだ。
 だが、口先だけの謝罪の言葉など意味がない。
 これから少しずつ、行動で示していかなければならないだろう。
 罪が両親だけではなく、レスティアにもあったことは理解している。無知もまた、償わなければならない罪だ。
 犠牲になったすべての人達に、もう二度と繰り返さないことを誓う。
 これからは話し合いで解決する世界を作り上げていかなければならない。
 レスティアは隣に立つジグリットを見上げた。
 道は困難だが、彼と一緒ならばきっと成し遂げることができる。

 国を亡くし、両親を失った。
 それでもかけがえのないものを手に入れた。
 これ以上望むものなど何もないくらい。
 ふたり一緒に生きていけば、どんな困難だろうと乗り越えられると固く信じていた。
 愛する人を抱き締め、愛する人に抱き締められながら、しあわせを感じている。
 永遠に続く国も、永遠に続く命もない。
 でも、この愛だけはきっと永遠に続くだろう。
 
 
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