結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
六月に入り、目に映る木々はひと際鮮やかな緑に色づいた。日が長くなったとはいえ午後七時の今はもう、瑞々しい若葉は夕闇に溶け込みつつあるけれど。
その代わりに、グラデーションが綺麗な空を助手席の窓から眺めている私の耳に、とんでもないひとことが飛び込んでくる。
「俺、好きなんだよ。キスが」
ドッキン、と心臓とともに肩が跳ね上がった。運転席のほうを振り向けば、平然と運転を続ける社長様がいる。
キスが好きって……またこの人はなにを言い出すの!?
「今の時期、一番美味いし。でも江戸前寿司だと握ってくれないんだよな」
「あ……あぁ! へぇ、そうなんですかぁ~」
な、なんだ、寿司ネタの鱚の話か!
勝手に勘違いしてしまった自分が恥ずかしくて、大袈裟に相づちを打ってしまったけど、変に思われていないだろうか。
なぜこんな話になったかって、約束の金曜日を迎えた今日、これから連れて行ってもらうところがお寿司屋さんだからだ。
こうして社長の車に乗せてもらうのは二回目だから、この前ほどいたたまれない感覚はないものの、やっぱり緊張する。
彼に下心はないというのに、先日見せられたお色気動画の状況とリンクして妙に意識してしまう。紫乃ねえのバカー。