結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「バレンタインですから、奥手な人を後押しするために、媚薬効果のあるチョコレートなんていかがですか」

「っ、ごほ、げほっ……!」


ギョッとした瞬間、唾が気管に入って思いっきりむせてしまった。隣りに座る先輩が、「どうした」と言いながら背中をさすってくれる。

ちょっと、一体なにを言い出すんですか社長!?

呼吸を整えつつ、ずっと逸らしていた目線をようやく合わせると、意地悪な彼の唇が嬉しそうに弧を描いた。


「冗談ですよ。大丈夫ですか? 倉橋さん」


心配したように声をかけてくれるけど、動揺する私を見て内心面白がっているに違いない。この腹黒狼め……。

私は口の端を引きつらせて、「だ、大丈夫です」と小さく返した。

他の皆は、意外にも社長の提案で盛り上がっている。きっと、硬派で真面目なイメージの彼から媚薬だなんて言葉が出たからだ。

すると、営業部のエースである手塚さんという男性が、にやりと口角を上げ、テーブルに身を乗り出す。


「社長は、媚薬入りのチョコレートをもらったらどうするんですか?」


女性社員から人気があるらしい色男の手塚さんは、仕事もでき、物怖じしない性格から、社長にこんな質問もできるのだ。

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