結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
こんなにしっかり顔を合わせたのは金曜日以来だ。緊張し始める心を落ち着けるよう、一度眼鏡を押し上げ、「なんでしょうか」と返した。

社長が私に話しかけたことで、隣にいた先輩は先に部屋を出ていき、空いたその席に社長が腰を下ろした。そして、単刀直入に言う。


「来月、例の彼がうちを訪問してくれることになりました。まだ皆には内緒ですが」


誰のことを言っているのかは、すぐにわかった。天才パティシエの葛城さんに違いない。

あの彼が、ついにサンセリールに足を運んでくれることになったんだ……!


「本当ですか! 話が早いですね」


目を丸くし、思わず社長のほうに身を乗り出してしまう私に、彼は少しだけ口角を上げた。


「彼の気が変わらないうちに、と思ってお誘いしたので。ですが、少々困ったことが……」

「困ったこと?」

「工場見学は、倉橋さんの案内でお願いしたいと言うのです」


社長の表情が神妙になるから、どうしたのかと首を傾げたものの、語られたものは特に難しいことではなかった。

工場には担当商品の生産状況やラインの確認をしに、日々足を運んでいるため、おおまかなことなら私でも案内できる。

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