結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
苦悩していたそのとき、突然上から影ができて、雨が当たるのを感じなくなった。

ぱっと見上げれば、怪訝そうな顔をする氷室くんがいる。今本社から出てきたらしい彼は、自分の傘を傾けて私を入れてくれていた。


「どうしたんですか、傘も差さないで。風邪ひきますよ」

「氷室くん……」


無愛想な彼の小さな優しさが胸に染みる。氷室くんって、どうして私が困ってるときにいつも現れるんだろうか。

なんだか泣きそうになる私を見下ろす彼は、表情を変えずに核心を突いてくる。


「“葛城”って人と、なにかあったんでしょう」


ギクリとしつつ、無理やり口角を上げてみせる。


「……聞こえてた?」

「名前だけ。この間、工場に来てた人ですか?」


さすが鋭いな、と思いながらこくりと頷いた。

葛城さんに動揺させられている場面を二度も見られてしまうと、もうごまかせない。でも、説明するには時間がかかるし、今はその気力がないため、冗談半分、本気半分でこんなふうに比喩してみる。


「思いがけず難しい問題を出されちゃったの。P対NP問題より難しいかも」

「そんな難題を出せる人がいるとは」


氷室くんが真顔で驚くから、私は少し吹き出してしまった。

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