結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
彼女の後ろから現れた氷室くんも、貴重な温かい笑顔を見せる。


「遅すぎる春がやってきましたね」


いつか言われたのと同じ嫌味な文句も、今は軽く笑い飛ばせる。

相談に乗って、応援してくれたふたりに、「ありがとう」と心から感謝をして、今夜は飲みに行こうと約束した。


そうして、いつになく胸を弾ませながら仕事をこなしていると、お昼休憩に入ってすぐ、思わぬ人物が研究課に現れた。

「お疲れ様です」という美声で男性社員の視線を集めるその人は、なんと綾瀬さんだ。

彼女は私を見つけると、にこりと綺麗な笑みを向けて言う。


「倉橋さん、少々お時間いただけますか?」


若干ギクリとして、口の端が引きつる。

もしや、もう社長と付き合い始めたことがバレたとか?

心当たりがありすぎてものすごく気乗りしないけれど、やっぱり断ることなんてできるはずもなく、そろそろと彼女のもとへ向かった。

廊下に出ると、奥の非常階段のほうへと歩いていく綾瀬さんに続く。誰もいないそこで足を止めた彼女に、私はとりあえず普通に尋ねてみる。

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