結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
氷室くんがしたり顔でわずかに口角を上げるものだから、なんだか恥ずかしくなって肩をすくめた。

すると、飲み干したグラスをドンッと置いた咲子ちゃんが、急にムスッとした顔になってぼやく。


「もー綺代さんだけ幸せになっちゃってー。これから誰と分子ガストロノミーについて語り合えばいいんですかぁ~」

「普通に語り合えるから」


テーブルにおでこをくっつける咲子ちゃんの背中を、ぽんぽんと叩いてつっこむ私。彼女が酔うのが早いのはいつものことなので、私たちは動じない。

うなだれたかと思いきやムクッと顔を上げた彼女は、今度はピシッと姿勢を正してこんなことを言い出す。


「ということで、綺代さんに最適なミッションを課します!」

「唐突だね」


怪訝そうに少し眉をひそめる私に、咲子ちゃんは自分のバッグをごそごそと漁って取り出したなにかを差し出してくる。

氷室くんと一緒にそれを見下ろし、一瞬固まった。


「私たち研究員の真価が問われるときが来ましたよ」


含み笑いする彼女と差し出されたものを見て、意味を理解した私は口の端を引きつらせた。


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