彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
あの日。

ごめんと呟いた主任は、私を一度きつく抱きしめてから解放すると、コーヒーのお礼だけ言って帰って行った。
何が起こったかよくわからず、その場でぺたんと座り込んでただ主任の帰っていく後姿を見ていた。

ごめんの意味も
抱きしめた理由も
何もわからないまま

主任は、東京へ行ってしまった。

思えば、私が気持ちを伝えようとした時に何度も遮られてた気がする。
聞きたくないって言う、主任の意思だったんだと思う。
だから「ごめん」なのかもしれないと今ではそう解釈してる。

かといってこの気持ちをすぐに違うところに持っていく事もできなくて。
それで、仕事を一生懸命してきたけど。週末、家にいればいろんな想い出がうかんできてしまうんだろう。

こんな想いはもう……


「桃ちゃん。そろそろ帰れる?」


早番で仕事が終わっていた望亜奈さんは、そのまま書類の整理を手伝っていたらしい。
時間を見計らって私に声をかけてきた。


「あ、はい。大丈夫です」

「そ、じゃ着替えたら一緒に桃ちゃんの車置きに行こうか」


へ?車?
車がなきゃ帰り、困るでしょう?


「家に車置きに帰るんですか?」

「なによ、桃ちゃん。飲まないつもり?」


綺麗な顔なんだから、そんな所にシワ寄せちゃダメです。望亜奈さん。
そんな顔になったらどうするつもりなんでしょう。


「私。みなさんのこと送っていきますよ?って何人くるのかわかんないですけど…」

「なーに言ってんのよ。せっかく桃ちゃんもお酒飲めるようになったんだから、飲まなきゃもったいないじゃない」


先週もそれで飲みすぎてるのに。
また飲んだら、主任に怒られるっ


……って、もう怒ってくれる人なんていないんだった。


「でもっ」

「はいはい、じゃあ帰るわよ」


先にロッカールームに向かって行ってしまった望亜奈さん。
言い出したら聞かないから、これはもう従うしかない。
私は望亜奈さんを追いかけて、ロッカールームに急いだ。
< 327 / 439 >

この作品をシェア

pagetop