彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)


「あのっ、えっと、その、手を……離し――――」
「イヤです」


え?
イヤって?
どういうこと?

だって迷子になりませんよ?

ここは電車の中で
しかも指定席に座ってるわけで

だったら、その
色々と教えてもらえませんか?
もちろんそんなことは言えるはずもなく。

主任から出た言葉は、


「疲れているんだから、寝てください」


は、い?
そんな、寝れるわけないでしょう?

右手を繋がれたままで。
数々の理由(わけ)もわからないままで。


隣にいるのは確かに主任で、
それはどうやらジュンさんらしくて


『フトモモ天使』が、
いつ『天ケ瀬桃華』だと気付いたのか

それも知らないままで。

知ったからと言ってだからどうって…言われたら何も言い返せないけど。
それでも、やっぱりそのへんはちゃんと……


「あの、主任は、いつから――――」
「まだ寝てなかったんですか?」


だからっ
このままじゃ寝れないですってば


「ほら、こうしたら寝れますか?」


そう言って、主任は空いているほうの右手で私の頭を自分の肩に乗せ…?

ちょっ
そんなことしたらっ
ますます寝れなくなるじゃないですかっ


「いや、あの、だからっ―」
「静かにしてください。周りには寝てる人もいるんですから」


私の言うことなんてことごとく却下され。
しかも頭を動かしたらまた怒られそうな……


仕方なく私はドキドキする心臓の音が聞こえないように祈りながら、きつく目を閉じるしかなかった。



すごい緊張したまま一日を過ごし、驚きと戸惑いの中でのこの電車の中。

心地よい揺れと先ほどまでのわずかなアルコールで

……急に睡魔が襲ってきた。



頬に感じる主任のぬくもりと
この香りに――

意識を手放すまでにそう時間はかからなかった。
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