彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
食後のコーヒーを飲んでデザートまで頂いて、そろそろ帰りますよって時間。

口紅なんてとっくに食べちゃってるだろうし、ちょっと化粧室にって思って席を立ったけど。


あれ?
なんか揺れてる?


揺れてるのは自分だけで、でもまさかそれがアルコールで酔ってるなんてこと思いもしない。

ちょっとヨロっとしてテーブルに手をついた私に主任が心配そうに。


「大丈夫ですか?もしかして酔いが回りました?」

「大丈夫ですよ?今日は一杯歩いたから足がもつれちゃったのかも」


ここは店の奥の方の席で、トイレまではそれほど遠くない。
私は、少しふらつきながらも慎重に歩いていく。


トイレの鏡で顔を見れば頬がかなり赤い。
甘いとはいえ、やっぱりお酒だから。
このぐらいですんでるだけでも今までの私にしてみたらかなりの進歩なんだけど。


うん、大丈夫。ちょっと疲れただけだよ?
って思ったのは私だけで。

火照る頬をなんとか冷やして席に戻ってみれば心配そうな主任の顔。


「タクシー呼んでもらいましたから、とりあえずそれを飲んでください」


グラスに入れられているのは明らかに水で。
あれぐらいのお酒でこんな風になるなんて、なんか子供みたいで情けなくなる。


「……はい」


さっきまで微笑んでくれていた主任は今はもういなくて。
私がその雰囲気を壊してしまったんだと思ったら、のどの奥が熱くなってくる。


下を向いて、のどの奥の何かに耐えていると、


「何も知らずにすみません、天ヶ瀬さんに無理に飲ませたりして」


聞こえてきたのは思いのほか主任の優しい声で……。


勝手に飲んだのは私なのに
主任が謝ることなんてないのに
そんな顔させちゃったのは私なのに


「あ、の……。すみません」


そういうのがやっとで。
下を向いたまま私はそのグラスに入った水を少しずつ飲むことしか出来なかった。
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