彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
タクシーがきたからと呼びにきてくれたスタッフの方にお礼を言って席を立つ。


朔也さんとはあの時話したきりで、もしかしたらあきれてるのかもしれない。
この前は帰りも見送ってくれたけど、今日はいないから。


やっぱりまだきちんと歩けない私の後ろから主任がついてくる。

いつもなら先に歩いてくれるのに、今は何故か後ろで。

ただそれだけで背中が緊張してしまって、余計まっすぐ歩けないのかもしれない。

主任はただ、私がふらっとしたら支えてくれようとしているのかもしれないのに。



上司に迷惑をかけるなんて。


私は
主任に怒られないように
手を煩わせないように
関わる時間を短くするように

なんてついこの間まで思ってたはずなのに。

ここ最近、近くなったような気がした主任との心の距離に、好奇心で私が踏み込んだせい。


入り口前に止まっているタクシーに先に乗る様に言われて素直に乗り込む。

主任が行き先を告げ、車が静かに動き出した。



早く早く
家に着いて
もうこの場にはいたくない


主任にこれ以上迷惑なんてかけられないから


静かな車内。
ぐっと手を握り締めて下を向く私。


時折道を指示する主任の声。
穏やかで少し低い耳どおりのいいその声。


下向いているからこの狭い車内では耳からの情報がすべてで。
こんな時でさえその声がすごく心地いい声だなぁなんて思う。



車がすうっと止まると、ドアが開いて、


「天ヶ瀬さん、着きましたよ?」


そう言ってから運転手にお札を渡す主任。

降りなきゃ
ていうか、何でお札渡してるの?


おつりを受け取って降りた主任に続き、不思議に思いながらもタクシーを降りた。
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