ハライメ〜悪喰の大蛇〜
なるほど、そういうこともあるかもしれない。
気付かないうちに感情が伝染する、みたいなことだろうか。
「ヒナが無意識で不安に思うことって……やっぱり、自分の親のに関係すること……かなあ」
私が言うと、加代が「たぶんね」とうなずく。
私は日菜子の言葉を思い出す。
『本年のハライメをつとめれば、矢鳥家の一員になれる気がする』
決意を持ってハライノギに臨んだ以上、この儀式が終われば今感じている家族の中での疎外感については自分で乗り越えるのだろう。
だけど、親のことは、それとはまた違う問題だった。
昨日も言っていた。
『私って何なんなんだろうって、わからなくなる時がある』と。
「ヒナちゃんの御両親のことって、今もまだ詳しく教えてもらえてないの?」
「うん……」
日菜子は何度となく自分の両親について祖母と父に尋ねたみたいだけど、
二人からは「母はお前を産んですぐに亡くなり、父はいない」と話すだけで、それ以上のことは教えてくれなかったらしい。
だから、それ以外は人々のうわさ話から情報を得るしかなかった。
母が祖母の娘ではないことや、父が誰だかわからないらしいこと。
それを知ってから、日菜子がぽつりと呟いたのを覚えている。
『話したくないようなひどい話だから、おばあちゃんもおじさんも、お父さんとお母さんのことを私に教えてくれないのかな』