ハライメ〜悪喰の大蛇〜
そんなはずないよ、と私が言うと、日菜子は珍しく強い声を出した。
『なら、どうして二人は教えてくれないの?何で私が聞くたび、あんなに嫌そうな顔をするの?』
私は何も答えられなかった。
私にだって……わからなかったからだ。
二人がどうして、日菜子の両親の話題をあそこまで避けようとするのか。
父親についてはともかく、母はこの家で家族として暮らしていた人なのだ。
愛人の子だったせいで、祖母とうまくいっていなかったのかもしれない。
それでも、他人の無責任なうわさ話よりはまともな母親の話を、日菜子に教えてあげられるはずなのに……。
「ねえ、あざみ。ヒナちゃんのお母さんて、ヒナちゃんを産んですぐに亡くなったんだよね?」
「うん、そう聞いてるけど」
「私ね、あんたたちからそれを聞いてから、ずっと、変だなって思ってたことがあるの。
私、ヒナちゃんのお母さんに会ったことがある。小学校に上がったばかりの頃に」
え、そうなんだ……と普通に言いかけて、私は言葉を飲み込む。
その話は確かに……変だった。
私と加代は三歳違い、日菜子と加代は四歳違いだ。
小学校に上がったばかりというと、加代は七歳になる年のはず。
四つ下の日菜子は、その頃三歳だ。
『日菜子を産んですぐに亡くなった母親』は、すでに存在していないはずなのに。