ハライメ〜悪喰の大蛇〜
加代が続ける。
「その日ね、学校から帰ってすぐにあざみのうちにビワを持って行くように頼まれたの。
その頃、一年生になったばかりで、ランドセルを背負って歩いてると近所の人がみんな褒めてくれて、それが嬉しくて。
その日もランドセルを背負ったままあざみのうちに行ったのを覚えてる。だから時期は間違ってないはずよ。
普通に玄関から声をかけたんだけど、誰も出てこなくて。でも人がいるみたいな気配はあったの。
それで私、家の裏に回ったの。矢鳥家のおうちってけっこう大きいから、冒険するような気持ちで。
子供だったから、よその家の庭に勝手に入るのを悪いなんて思わなかったのよね。
母屋と蔵を過ぎると、もうひとつ小さな建物があった。
ーーーこの離れのことよ。
明式神社に行く時にこの離れの後ろ姿は見たことがあったから、
『あっ、あのおうちだ』って気付いて近寄ったの。
そのまま、いつも見ている裏側に回ってーーーそしたらそこに、女の人がいた。
縁側に座って、小さい女の子を抱っこしてたの。
女の子の方はヒナちゃんだった。女の人の腕の中でかわいい顔で眠ってた。
でも、女の人の方は知らない人だった。