ハライメ〜悪喰の大蛇〜
「ねえ、やっぱりこっそりマンガでも差し入れてあげようか?どうせ周りに誰もいないんだし、何やってもバレないでしょ」
今回の儀式で、私は儀式の間の入口の前で番をする「ウブモリ」をつとめる予定だった。
儀式の最中は建物の周りに誰も近づかないから、私たちが遊んでいたって気付く人はいないはずだ。
「もう、そんなことしてたら神様に怒られるよ」
日菜子が言うので、私は「マジメだなあ」とため息をついた。
「ヒナ、神様とかホントに信じてるの?」
「信じるとか信じないじゃなくて、やるからには『いる』って前提で挑まないと」
「あんた、ほんとにえらいねえ」
不真面目な私は苦笑するしかない。
私も日菜子も、ごく普通の現代の女子高生だ。
大蛇の話なんてただのおとぎ話だと知っているし、
「儀式」っていう時代錯誤の行事のために学校を休みます、なんてとても言えなくて、欠席届けは「親族の行事に参加」と書いてごまかした。
矢鳥の家に生まれたからこうして儀式だ何だとつきあっているけれど、信仰心なんか無いに等しい。
矢鳥家の当主である父は時代の流れというものをよくわかっていて、私たちにも信仰の無理強いはしなかった。
家の仕事として継いでもらわなければいけないものはあるが、それを覚えるのは成人してからで構わない、という方針だ。