【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
今夜は早めに切り上げよう。
そう決めて、そのことを内線で彼女に伝えようとしてから、手を止めた。
早く…彼女の顔が見たい。
その一心で時計を見ると、既に何時ものコーヒーブレイク時間がとっくに過ぎていることに気付いた。
俺は控えめに執務室のドアをノックする。
一瞬の間を開けて、そのままドアを開けると、蒼白な顔をしている彼女が、いた。
「はい、なんでしょう?…コーヒーでしたら今…」
どうしたんだと、手を差し伸べるようにすると、それをあからさまに避けて、彼女は引きつった笑みを浮かべた。
「なんでしょう…?」
固い声。
そんな彼女に思わず溜息が出てしまう。
「午後のスケジュールをもう少し詰めて、帰宅時間を早めてくれ」
と、それだけ告げて、部屋から出る。
これ以上、あんな顔をさせていたら、嫌がる彼女を否応なしにこの腕の中に引き寄せて、閉じ込めてしまいそうだったから。