【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
私は、この日のスケジュールをさっと確認して全てをクラウドさせると、席を静かに立ってコーヒーメーカーの前まで行き、慣れた手つきで珈琲を淹れ、英字新聞を片手に自分のパソコンで海外の社員とチャットトークをしている社長のデスクにそっと乗せる。
そうすると、彼は必ずぱちんと片目を閉じて…所謂ウィンクをして寄越す。
私はそれを無視して、また自分のデスクに戻り、パソコンに向き直りながら、膨大なメールをチェックしていく。
毎回、メーラー立ち上げるこの瞬間が1番の恐怖だ。
何故なら、自分宛てのものは少ないが、社長宛のものは多い時で1000通を越えることがあるから。
今日は週末ということもあり、まぁまぁの量だったけれど、それでも、このメールの数でいつも終業時間が決まると言っても過言ではない。
メール一つ一つに目を通して、微細な所まで目を配り重要な部分をまとめることは、非常に労力がいる。
そんなメールの返信をひたすらして、即時に出来ないものは指示を仰ぐ為にチェックを入れておく。
これは、出来る範囲ではあるけれど、就業中殆どしている作業かもしれない。
そして、パソコンとにらめっこする事数時間。
不意にお昼を告げるアラームが鳴った。
私はこの職に就いて、時間厳守という言葉を嫌と言うほど、叩き込まれて来た。
だから、全ての時間をスマホのアラーム、若しくはデスクに備えてあるデジタル時計に設定してある。
そのアラームを聞いて、私と同じくパソコンとにらめっこしていた社長が、こちらを見る気配がした。
低くて、甘えるような声が耳に流れ込んでくる。
これに落ちたら、やばい…そう、思わずにはいられないほど、甘い甘い声。
まるで野獣が、発情期にフェロモンを出すような…。
って、その例えは失礼か…。