【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜
「綾小路…」
「何でしょう?」
「偶には、二人でランチでもするか?」
「…お弁当持参なので」
「ほんとに付け入る隙もない奴だな」
くくくっと笑う顔さえも、整っているのだから始末が悪い。
別に社長の事が嫌いなわけじゃないけれど。
全てを兼ね揃えた彼に対して、キュンよりも尊敬の念の方が強く、恋愛感情よりも憧れに近い感情が胸に積もっている。
現に、語学堪能で社会経済にも明るく、海外のクライアントとなんでもないことのように話し合いをしたり、電話一本で傘下にある会社の株を上げたり…ぐうの音も出ないとはこういうことを言うんじゃないか?なんて思うんだ。
だけど、そんな思いとは裏腹に、私は冷たく言い放つ。
「要人社長なら、選り取りみどりなんじゃないんですか?」
確か1年くらい前に刺々しくそう聞いたことがある。
それは自然と口を付いて出て言葉だった。
その言葉聞いた彼は暫くの沈黙の後…。
「綾小路の想像に任せるよ」
とだけ返してきた。
その憮然とした態度に疑問を抱いたのだけれど、私はすぐに慌ただしくその日の仕事をこなした。
どうもこの帝王様の思っていることは、私の思考とは別の次元にあるらしく…。
ちょくちょく、訳の分からないことを言われては、疑問符を漂わせることになる。
絶対に、手の内を明かさない、目の前の男は…危険。
そう、思う。
だから、背筋をピンと張って彼の出方を待つ。