君を愛していいのは俺だけ

 駅の改札までやってくると、一次会で帰宅する社会人の姿が多い。
 金曜とはいえ、長々飲みたくないだけなのか、苦手な上司に付き合うのが嫌で、理由をつけて帰宅しているのか……。
 そういえば、前職の飲み会は最悪だったな。
 楽しく飲みたいのに、笑えないダメ出しをされて苦痛でしかなかった。こんなふうに楽しく話せるのが普通のことなんだと思うと、本当に転職して正解だったと思える。


「それじゃ、お先に。また来週ね」

 元木さんはちょうど電車が来ると言って、足早に改札を抜けて先に帰ってしまった。私も帰ろうとしたら、桃子ちゃんに腕を引かれた。


「ねぇねぇ、仁香ちゃんの家ってどこだっけ?」
「千駄ヶ谷だよ」
「滝澤さんは?」
「俺も、千駄ヶ谷」

 桃子ちゃんの問いかけに首を傾げていると、突然彼女が滝澤さんの腕も取った。


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