君を愛していいのは俺だけ

「秋吉さん、今日飲みに行かない? 桃子ちゃんたちも一緒なんだけど」

 帰り支度をしていたら、向かい側の席から滝澤さんが話しかけてきた。
 こんな日に限って同期飲みがあるなんて……。


「ごめんね。先約があるの」
「そうなんだ。じゃあまたの機会に」
「うん、みんなにもよろしく言っておいて」

 席を立って、パウダールームで身なりを整える。
 陽太くんがくれた口紅を塗ってから、チェックの大判ストールをコートの上から纏い、社を後にした。


 渋谷駅で乗り換えて表参道駅で降り、外に出たのは十八時五十分。
 地上に出て、周りを見渡したら、石灯籠の近くで立っている陽太くんを見つけた。


「すみません、お待たせしましたよね」
「いいよ。時間通りでしょ? 店、予約してあるから行こう」

 彼の隣から、街並みを見るのはいつぶりだろう。
 付き合っていた頃も、表参道を散策したことがあった。
 だけど、欅の木が綺麗に輝くイルミネーションを一緒に見るのは初めてだ。


< 160 / 431 >

この作品をシェア

pagetop