君を愛していいのは俺だけ
「今、恋人はいないの?」
「いません。社長は?」
「俺もいないよ。仕事ばっかりしてるし、食事に出るのも仕事絡みが多いし」
「そうなんですね……」
彼の口から期待していた答えが返されて、心がちょっと明るくなる。
これで少しはチャンスが広がったわけだし、諦めてなるものかと気持ちを改めて強く持つ。
すぐに彼が選んでくれなくても、いつかもう一度選んでもらえるように頑張らなくちゃ。
チーズの盛り合わせをあてに、彼が選んでくれたフルーティな赤ワインを少し含む。
今日は酔えなさそうだ。歓迎会の二の舞にならないようにと気を張っているのもあるけれど、陽太くんと過ごしている今があまりにも貴重な時間で、一分一秒記憶に残しておきたいから。
「仁香」
「っ……はい」
彼が自然に私を名前で呼んでくれるのが嬉しい。
ふたりきりの時だけの特別があるだけで、ドキドキが加速する。