君を愛していいのは俺だけ
「思い出話でもしようか」
「……うん」
私と付き合っていた過去を、なかったことにせず向き合ってくれる彼の誠実さも好き。
グラスが空になるとソムリエがワインを注ぎにやってきた。その間、話が中断しても、彼は私に微笑みを向けてくれている。
「仁香には、謝らないといけないってずっと思ってた。それが心残りでね」
「うん……あの時は悲しかったな」
「ごめんな。あんな別れ方をして卑怯だったと思う」
でも、私は彼を責めるつもりは微塵もない。別れた彼が裏切ったわけではなかったのだから。
「あの時、上手く隠せてると思ってたんだけど、仁香のお父さんに気づかれてさ」
「私もしばらくしてから聞かされて、それは知ってました」
「そっか、知ってたのか。……バレた時、猛反対されたんだ。俺は家庭教師であって、恋愛をするために雇われていたわけじゃないんだから、当たり前なんだけど」
「……社長は、悪くないです」
父親が勝手に別れさせなければ、こんなに切ない片想いをしなかったし、陽太くんだってそんな思いをせずに済んだはず。