君を愛していいのは俺だけ
「つけてきてくれた?」
その言葉に首を傾げると、彼は小さく笑って自分の唇を指差した。
「あっ、そうなんです。綺麗な色なので私も気に入って」
「よく似合ってる」
褒められると、くすぐったいな。
それに、この前彼が塗ってくれたあの時間を思い出してしまって、頬が熱くなる。
「こうやって、また仁香と話せるようになれてよかったよ」
「私もです」
「できれば、ふたりでいる時は“社長”じゃなくて昔の呼び方がいいんだけどね」
「それは、ちょっと……」
社内で間違ってしまったらと思うと、さすがにそれは出来かねる。それに、彼とふたりで過ごすようなことは多くないし……。
「冗談だよ。俺は社長で、仁香は社員だもんな」
少し期待しては、また萎むを繰り返す。
彼と再会してから何度目だろう。
それでも、もしかしたらって願ってしまうのは、私の気持ちが今でも変わっていない証拠だ。