君を愛していいのは俺だけ

 二時間半で店を出て、鼻先がすぐに冷たくなるほどの夜風に髪がなびく。


「社長、ご馳走様でした!」
「いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます」

 会費は無料と聞かされていたけれど、つまりは陽太くんの驕りだったようで、周りの社員と同じように頭を下げた。


 それから、二次会に行く人と帰宅する人に別れ、各々数人で集まって散り散りになった。


「秋吉さんも帰宅組ですか?」
「はい。タクシーで帰ろうかなと」

 社長と少しだけ話し込んでいた佐久間さんが、私の隣に立った。


「今日は捕まらないんじゃないかなぁ。この時間はきっと取り合いでしょう」
「そうですよね。やっぱり電車にします」
「気を付けて」

 佐久間さんは原宿方面へ向かって歩いていく。
 陽太くんの姿を探したけれど、すでにイルミネーションが煌めく街の景色に溶け込むようにいなくなっていた。


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