君を愛していいのは俺だけ
「ごめん、気付かなかった」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ、一緒に行くか」
「えっ!? 社長、佐久間さんたちとご一緒なのでは」
「いや、違うよ」
私の返事を聞くことなく、彼は颯爽とビルを出て、車寄せで待機していたタクシーに乗り込んだ。
「青山一丁目の駅のあたりまで行ってください」
運転手にそう告げると、彼は携帯を操作して耳に当てた。
「――あ、佐久間? 今どこ? ……あ、そう、わかった。……俺は今出たところだから、一足先に行っておくよ。着いたら、いつも通りでよろしく」
終話した彼は、携帯をコートのポケットにしまい、ビジネスバッグからタブレットを取り出した。
「お仕事するんですか?」
「メールチェックだけね。飲み始めたら、仕事したくなくなるから」
客先や社員からのメールにひと通り目を通しながら、彼は小さく息をついた。