君を愛していいのは俺だけ

 この前と同じ、ひとり分の間がもどかしい。だけど、これ以上近付いたら、本当に鼓動の音が聞かれてしまいそうだ。

 彼がするように、私も触れてみたいな。
 でも、意識して手を伸ばさなくては届かない距離に、躊躇する。それに、そんなことをする勇気はなくて。


「みんなが来る前に話しておきたいんだけど、異動の件はどう?」
「……ちょっとまだ迷ってます。ありがたいお話だということは分かってるんですけど」
「不安があるせいで話に乗れないなら、それは違うかもしれないよ。誰だって経験のないことをするときは不安が付きまとうものだからね。でも、ひとりじゃない。佐久間たちもいるし、俺だっているんだから」
「そうですよね……でも」

 MD職にも魅力を感じているのが事実で、社長室に異動してから戻りたいなんて言えるはずもなく。


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