君を愛していいのは俺だけ

 玄関ドアの開閉音がして、スリッパで廊下を歩いてくる音に顔を向ける。


「おかえりなさい」
「ごめんね、遅くなって。時間大丈夫?」
「平気ですよ。家も近いし、終電もまだあるので」

 食器やカトラリーを食洗機に入れていると、陽太くんも残った食事をビニールに纏め、一緒に片付ける時間になった。


「大体でいいよ。ごめんね、気を使わせて」
「お邪魔したので、これくらいはやらせてください」
「ありがとう。助かるよ」

 お礼を言われても困る。
 だって、少しでも彼といるためにはどうしたらいいか考えた末にしていること。
 自分でもあざといと感じるけれど、せっかく話せる機会だから、なんとかしたくて……。


 こんなことをしてまで気を惹こうとするなんて、彼は好まないかもしれないな。
 彼が好きなタイプの女性像には、私がどんなに努力しても足りないものがありそうだ。

 少なくとも、尊敬しあえる関係を求めている彼に、こんなやり方で時間稼ぎしたって喜ばれない気がする。


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