君を愛していいのは俺だけ

 六本木に着き、家族連れやカップルに混じって彼と歩く。
 時折、肩を竦めたくなるほどの北風が吹くと、つい陽太くんと手を繋ぎたくなるけれど、そんな大それたことはできなくて……。


「待って」
「ん? あ、歩くの早かった? ごめん」

 彼のコートの裾を軽く引っ張って、甘えてみるのが精いっぱいだ。

 すれ違ったカップルみたいに、腕を組んだり手を繋いで歩きたいな……。初めて陽太くんの家に行った夜、手を繋いでくれたのは気まぐれだったのかなぁ。


「そういえばさ、今日もあの口紅つけてきてるんだね」
「うん。すごく気に入ってるし、陽太くんが褒めてくれるから」
「素直だね、仁香は」
「え?」
「そういうところ、すごく好き」

 不意をつかれて、一瞬で頬が熱くなる。
 だけど、彼はそんな私をもっと困らせたいのか、手を取って歩き出した。


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