君を愛していいのは俺だけ

 運転している彼の口数が、次第に減ってきた気がする。
 私も、このまま千駄ヶ谷の自宅に送られるのだろうと思うと、なんだかさみしくなってきてしまった。

 もう少しだけ一緒にいたいなぁ。
 だけど、そんなことを言ったら彼に驚かれてしまうかもしれないし……。

 もっと話して、ドキドキしていたいのに車は街並みを流していく。


 この前、彼とデートをした夜、手を繋いで渡った歩道橋の下を通過した。
 デートだって言い切ってくれた時の、彼の真剣なまなざしを思い出す。
 ドラッグストアの横を入り、彼の家へ行くと決断してから見つめた大きな背中も……。


 あの時は、まさか彼が私を想ってくれているなんて、少しも気づかなかった。
 今だってクリスマスデートをしているのが信じられないくらいだ。


「仁香」

 この数日の出来事を思い返していたら、不意に彼が話しかけてきた。


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