君を愛していいのは俺だけ

 彼と一夜を共にしたいと思っていたわけじゃないけれど、予感だけで覚悟をしたところもあった。
 だけど、食事をするだけだったと知ったら、自分の心の奥にあった無自覚の願望に気づいてしまって……。

 手を繋いで温もりを知ったら、抱きしめられたくなる。
 抱きしめられたら、キスをしてほしくなって。

 キスからその先は――まだ、考えてもいないけれど。

 でも、いつかは……って、なにを考えてるのよ、私。


 急いで支度をして、待たせている彼の元へと戻った。
 冬空の下、彼は待ち合わせた時のように外に出ていて、腕を組んで立っていた。


「お待たせしました」
「大丈夫だよ。仁香の部屋がどこなのかなって思ってただけで」

 彼が見上げていたのは、私が住んでいるマンションだったようだ。


「五階の右端の部屋です」
「あぁ、あの部屋か」

 一緒に見上げたら、ふと視線を私に向けた彼が見下ろしてきた。

 冷たい夜風とちらつく雪を溶かしてしまいそうな熱っぽいまなざしに、ドクンと脈が鳴る。


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