君を愛していいのは俺だけ

 容姿も声色も、話す時の優しいまなざしも……。

 きっと“陽太くん”だと思うのに、確かめる勇気がない。
 そうじゃなかったら、もう二度と会えないと諦めるしかなさそうだから。それに、こんなに似ている周防社長の元で働いていけるか不安になる。


「秋吉さん、どうしましたか?」
「どうして私の名前をご存じなんですか?」
「今秋の入社は、滝澤くんと元木さん、真田(さなだ)さん。それから秋吉さん。社員のことは覚えてるよ」

 デスクの向こうにいる社長は、ゆっくり立ち上がり、私の目の前に立った。


 この背丈も、陽太くんと似てる。
 百八十二センチを見上げてきたから、ヒールを履いていてもなんとなく分かるんだ。


「それで、どんなご用かな?」
「あのっ……先日は大変失礼しました」

 身代わりでお見合いに行くなんて失礼だ。
 いくら優しそうな周防社長でも、憤慨しているかもしれない。

 私は頭を下げて、謝罪の思いを伝えた。


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