君を愛していいのは俺だけ

 席を立ち、主のいない執務室の前へ。

 しんと静まり返った室内は、整然としている。
 デスクの上には、彼が社内会議の時に使用するタブレットが置かれていて、窓際にある観葉植物の緑が空調でわずかにそよいでいた。

 社長室のセキュリティーを解錠する電子音が聞こえて振り向くと、外出先から戻ってきた陽太くんが入ってきた。


「ごめん、待たせて」
「お疲れさまです」

 隣に立って、執務室のセキュリティーも解錠した彼は、私を招き入れた。


「体調は大丈夫か?」
「っ……別に、どこも悪くありませんから」
「それにしても、顔が赤かったけど」

 分かってるくせにとムッとしたら、彼は子供をあやすように私の頭に手を置く。


「子ども扱いしないでください」
「してないよ。仁香は大人の女になったからね」

 ドアの前に立っている私をソファへ誘いつつ、彼は後ろ手で内鍵を閉めた。


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